『 』の物語。第一話:サンタ・クローズからのクリスマスプレゼント

誰もが一度は考えた事があるのではないだろうか。

いつも通りの同じ毎日に心の感覚が麻痺して何だか楽しみなんて殆ど無い。

僕は何故、剣や魔法が日常に溢れていて人々が自由気ままに生きるような世界に生まれてこなかったのだろう。

第一話:サンタ・クローズからのクリスマスプレゼント

22時、なんの変哲もなくいつも通りに仕事が終わり帰宅する為に池袋駅へ向かう。

東京の空は明るすぎて、いつも星なんて殆ど見えないけれど今日の夜空は地元を思い出すくらいに沢山の星が見えているような気がした。

そして今日は、何かと至る所にカップルがいる気がする。

だからなのか、いつも以上に道が詰まっているように感じて中々駅にたどり着く事が出来ない。

正直、仕事終わったばかりの僕は空腹で早く帰りたい気持ちでいっぱいなんだ。

寒さでポケットに突っ込んでいた手の中でケータイが軽く震える。

取り出してみると画面には『今、出張の帰りで池袋に居るんだけど夜ご飯一緒に食わねー?』というメッセージを受信していた。

送信元は和樹という9年くらいの付き合いになる親友である。

僕の職場が駅に近い事もあって直ぐに和樹と合流する事ができ、そのままレストランへ入った。

そして、テーブルにつき料理を頼み終えると和樹の顔つきが一気に変わった。

「俺さ~最近なんか変な夢を見るんだ。それは夢っていうよりも数日前の鮮明な記憶みたいな感覚でさ。所々は焦げた写真みたいに思い出せないんだけど、俺はアルデバランっていう空に浮かぶ王国で王の側近の戦士をやってるんだ。そんな夢をここ数日何回も見てて、見る度にそれが本当の記憶みたいに鮮明になっていく、そんでさ・・・最近おかしい事があったんだ」

和樹は右手でケータイを操作し、左手を捲って腕を僕に見せた。

「見てろよ」

そう言ってケータイで大人の動画を再生しそれをじっと見つめ始めた。

動画は少しずつエスカレートし内容が激しくなっていく。

それに合わせて和樹の腕の血管が盛り上がり、目で見てもすぐに分かるくらい脈を打ち始めた。

「え・・・なにこれ大丈夫なの?」

「良いから、もっと見てろよ。俺もこんなところで、こんな動画みてたくねーんだ。」

浮き出た血管は首まで伸び、和樹の顔はお酒を飲んだように真っ赤になって目もかなり充血し始めた。

息遣いも心なしか荒く少しばかり苦しそうである。

「いいか。よく見てろよ。」

そう言うと、和樹の腕の筋肉や首の筋肉は脈に合わせて風船を膨らますみたいに大きくなり始めた。

僕は目の前で何が起きているのか分からず、ただ脳裏が真っ白になりながらその光景を見つめた。

筋肉はそんなに簡単に大きくなることはないし、こんなに一気に他人みたいにデカくなる事は普通ないはず。

なのに、和樹の身体の殆どの筋肉がこのたった数分で何倍にも成長し、身体のシルエットも激変していた。

「俺もどういう仕組みなのかは分かんねーけど、夢の中の俺は自分の性欲に応じて肉体を大幅に強化する『雄の能力者』なんだ。そして見ての通り・・・その能力が現実でも発現しかけてる。でも何かが思いっきし足りなくて、ちゃんと力を発揮できねぇ。夢の中の俺なら、この状態でジェット機をワンパンするのも可能なはずなのに。」

ケータイが震える。

それはニュースアプリからの通知でこんな事が書いてあった。

「世界中の首都でトナカイが大量発生!既に数えきれない大惨事。東京都内でも警戒を。今直ぐ頑丈な建物に避難してください!」

「トナカイ?」

二人で目を合わせると、周囲のお客さん達も騒めき始めた。

でも平和ボケというのだろうか、誰一人として警戒するような様子もなく少しずつ普通の店内の雰囲気に戻っていく。

でも僕たちはこの非現実的なニュースが本当にガチでヤバい出来事の序章に過ぎない事を何となく察知していた。

オーダーした料理がテーブルに届く。

「急いで飯を食いながら何処に逃げれば安全なのか考えよう。」

「うん」

ご飯を掻き込むようにして急いで食べ、お互いにケータイで情報を漁る。

和樹はTwitterで状況把握を行い、僕はトナカイの特性や嫌いなものを調べた。

「おい、、都内でもトナカイが現れ始めたらしいぞ。」

「ふむ~。唐辛子とスプレーボトルを買って急いで二丁目に行こう。僕が昔働かせてもらってたお店の地下ならドアが頑丈な鉄で出来ているからトナカイでは突破出来ないし、二丁目の地上からエレベーターで直接地下に降りられる。トナカイは唐辛子の臭いが苦手らしいから、念のためドアの周囲とエレベーターの手前や中にスプレーで臭いをつけて近づけないようにする。相手は動物だから本能に忠実。その本能を逆手に乗って、逃げるのではなく来られないようにしよう。」

「わかった。そうしよう」

会計を済ましてレストランを出ると、池袋駅前には人が押し寄せていて都内を脱出するのは限りなく難しい状態なのが分かった。

タクシーが走っているような様子もないし、自転車も見当たらず二丁目まで行くのに徒歩以外の選択肢は無いと思った。

そして、我こそはと逃げる人々の顔はまるで鬼のようで、そこに既に人は居ないような気がした。

和樹が僕をお姫様抱っこの様に持ち上げる。

「夢の中の俺ほどではないけど、今の俺なら車と同じくらいの速さで走る事が出来るから、二丁目まで20分くらいで到着できるぞ。かなり揺れると思うが、向かってる間にもう少し情報探ってくれ」

そう言うと和樹は一気に加速し始め池袋から雑司が谷方面へと走り始めた。

ニュースアプリが更なる通知を告げる。

「大量のトナカイにより、世界各国の首都が壊滅。渋谷にも大量のトナカイが出現し始め死者を伴う深刻な被害」

そして、何処からか血も凍るような警報が鳴り響き、その音は誰一人逃がさないと言わんばかりに僕らを包囲した。

西早稲田を通過し東新宿へ入る。二丁目はもうすぐ。

そこに一人の中年くらいの男がうつ伏せで倒れていた。

和樹も正直体力の限界が近いのか、息を切らして道路に座り込んでいる。

「大丈夫ですか?」

男の身体を揺すっても、全く反応がなくただ生暖かい体温だけ手に伝わってくる。

身体をよく見ると肘が絶対に曲がらない方向に向いてるのが分かった。

座り込んでいた和樹が近寄ってきて「それ以上はやめよう。今の俺なら分かるけど、コイツにかなりの獣の臭いがする。多分、弄ばれてそのうちに生き絶えたんだ。体温がまだ残ってるって事は近くにいるかもって事だし、俺らもこうならない様に、早く安全な所へ向かおう。」眉間にシワを寄せながら低い悲しそうな声で発した。

亡骸を触れた手が異常なまでに痒く感じて、血が滲むほど強く掻きむしっても痒みが治まらない。

そして呼吸は無意識に浅く苦しく、身体中から冷や汗が溢れれているのにも気づかずにいた。

「なにか聞こえねーか?」

耳を澄ますと、ビルの間を抜ける風の重たい低い音。

遠くで鳴り響く、クラクションの高い音。

知らぬまに警報は止んでいて、微かに大量のベルの音がこっちに迫ってくるように聞こえた。

その音は後ろからではなく。

『空だ!』

そう思った時には、大量のトナカイが空を覆い尽くし新宿方面へ走り抜けて消えていった。

「奴らの左脚みたか?あいつら『印付き』だ。印付き・・・あっ。俺の背中の左上あたり見て見てくれ。」

和樹の首元から背中を覗き込むと、薄っすらと肩甲骨の上のあたりにダイヤのマークとその中に小さな六芒星が描かれていた。

「なんかマーク書いてあるよ」

「ふむ。これは王と契約をした証で、印があるやつの事を『王に魂を売りし者、印付き』と言うんだ。印付きは7人いる王のうち、自分が契約した王の力を借りて使う事が出来る。さっきのトナカイ達もどっかの王と契約し、その力の一端を借りて高速で飛行しているって事だ。つまり・・・今回の騒動の裏側には王がいる。そして王とは、一人で世界を破滅させられる力を持った7人の人ならざる大能力者のことだ。事態は思っている以上に深刻かもしれない。」

「和樹はどんな力を借りてるの?」

「俺たちの王は、光輝の王と呼ばれ光と闇をその身に宿し、光と闇の間にある絶対なる理を壁として具現化する能力を持っている。その能力を使い一人でアルデバランを守り続けている。俺が借りている能力も壁を作り出す能力だけど、バリアみたいな壁ではなくて、鎧みたいな体を守る力。でも、やっぱり本来体の中にあるはずの『何か』が枯渇してて、満足に力を発揮できない。二度くらいなら使えるかもな。」

22時30分、僕たちは誰も居ない新宿二丁目に到着した。

二丁目のコンビニや周囲のスーパーで唐辛子とスプレーを買おうと思っていたけど、何処の店も完全に締め切っていて購入することは出来ず、そのまま地下へ降りるエレベーターに向かった。

うろ覚えの手つきでボタンを順番に押しB1Fを押すと、しっかりとエレベーターが反応し地下に降りることができた。

そこは、そこそこの広さはあるものの周りはコンクリートで覆われていて空気が冷たく、お店へ繋がる鉄の扉もしっかり鍵が閉まっていた。

幸い、コンセントがあったのでケータイを充電する事ができお店のWI-FIを使う事ができた。

Twitterを覗くとTLは大荒れしており、ベルの音が迫ってくる・・・と書いたまま更新されていなかったり、悲劇的な発言が多く書かれていた。

そんな中にテレビ曲のツイートがあり沢山リツイートがある。

どうやらそれは新宿駅前を映したカメラのライブ映像の様で、広場は真っ赤に染まり大量のトナカイが人の亡骸で遊ぶ様子が映っていた。

全てのトナカイに『雪の結晶のような印』が刻まれている。

トナカイ達は空を見上げて低く鈍く響く雄叫びをあげはじめた。

その声は二丁目まで響き、地面を揺らすほどの振動になって僕らの体に伝わった。

そして画面のトナカイ達の『印』が青く輝き始め、空にも眩く印が浮かび、トナカイ達の雄叫びはより激しさをました。

「これはまずいぞ。」

和樹が難しそうな顔で唇を噛んだ。

「王を呼び出してるんだ。」

僕たちは一度、地下を抜け出し二丁目から新宿駅の上空を見つめる事にした。

東京の夜空に雪の結晶の様な魔法陣が描かれている。

そして、その魔法陣の部分だけ切り取られるように、真っ黒な穴が空に空いた。

「白雪(はくせつ)の王:サンタ・クローズ」

空には雲なんて一つも無いはずなのに、雪がチラつき始め体感で分かるほど一気に気温が下がり始めた。

真っ黒な空洞から見るからに数えきれないほどの筋骨隆々なトナカイが首輪にロープをつけ何かを引っ張ってくる。

「ホッホッホー。メリークリスマス。今宵は世界中の皆様に楽しい楽しいプレゼントを用意する事にしましたよ〜ぉ。ホッホッホー。さあ、架空なる世界の落とし子達よ、目覚めの時、君たちに『真実』のプレゼントを!」

そう言うと瞬く間に、サンタ・クローズの背後には真っ白な紋章が浮かび上がり、まるで昼と錯覚するくらいに新宿は照らされ始めた。

「まずい、地下に戻ろう。」

恐怖と震えで上手く腕が動かなくて、エレベーターのボタンが上手く押せない。

外では一瞬、何かが何かが超爆発して破裂したような音がなり、突風が吹いた。

僕は自分の親指を思いっきり噛んだ。

さっきよりちゃんと動く。

「良いか。よく聞け。王っていうのは一人で世界を簡単に滅せる存在なんだ。今日から地位も名誉もお金も何一つ関係ない弱肉強食の世界が始まる。お前にその力(能力)はあるか?」

気がついたら僕らの体は勢いよく宙に舞って、そこからは跡形もなく崩壊した新宿がチラついた。

クリスマス。僕らの文明は突然現れたトナカイとサンタ・クローズによって幕が閉じた。

白雪の王:サンタ・クローズの能力とは?

サンタ・クローズは第四の王で、全てを真っ白に戻す事が役割の王なんだ。

あらゆる願いを叶える能力を持っているけど、叶えてもらった人は寿命を全う後にトナカイに転生し、印付きになって王に従う事になっている。

つまり、今回現れたトナカイ達は自らの願いを叶えた人の成れの果てなんだ。

王としての戦闘能力は、最速の王と呼ばれていて時速3万キロで飛行する事が出来、ソニックブームを発生させて地上を瞬く間に破壊するよ。

和樹の能力とは?

和樹の能力は単純シンプルに『男の能力』で、闘争心や性欲が高まるほど男性的な能力が向上する。

気持ちがピークの状態ならば、ジェット機や高層ビルをワンパンで破壊するほどの力を発揮し、新幹線に突撃されても傷一つ付かない頑丈な体を持つ。

また自分自身のフェロモンを操って、自分に好意を抱く相手の能力を向上させたり、触れた相手の男性ホルモンの作用を強化し、一定時間、自分と同様に強烈な肉体強化を行う事もできる。

理性を完全に失うと行動が一切コントロールできなくなるが、狼男に変身し王には及ばないものの強烈な戦闘能力発揮する事も可能。

一定の条件下で『大賢者モード』になる事もでき、その状態になると肉体的な強さは全て失われてしまうが、IQが大幅に伸び、魔術と魔導を駆使して遠距離戦もできる様になる。

光輝の王の加護

和樹が受けている光輝の王の加護は、拒絶を纏うようなもので遠距離攻撃が和樹の肌に着弾する瞬間に10秒間その物体の時間を止めてしまうもの。

なので和樹への遠距離攻撃はどんなものも当たる直前に止まってしまい命中させる事が出来ないし不意打ちする事も出来ない。

次回予告

サンタ・クローズによる被害は、想像を絶するもので世界の人口は1/2以下にまで減り、全ての国は機能停止に陥っていた。

生き残った人々は偽りの記憶が剥がされ、そしてあるものに目覚めようとしていた。

volvox
最後まで読んで頂きありがとうございます☺

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